健康・長寿・思いやりを強要される社会に”自殺”という手段で抗った伊藤計劃のアニメ『ハーモニー』

政府によって「健康であること」を強要される世界とは?

こんなテーマで近未来を描いた伊藤 計劃(いとう けいかく)のアニメ『ハーモニー』をU-NEXTで観ました。

「自分の意思とは関係なく健康でいること」「他人に優しくあること」がどのような社会を生み出してしまうか?というシュミレーションをしているような作品で、全体のテーマとしては暗い内容でしたが楽しめました。

政府によって健康が管理される社会

本作『ハーモニー』では、体に埋め込んだデバイスによって人類の健康が政府によって管理された社会を描いています。

かつて起きた「大災禍」によりたくさんの人々の命が失われた事件を教訓に、健康を害するようなことに対して極端に拒絶反応を示すようになった社会です。

この社会では、

  • 酒やタバコといった有害な嗜好品の生産・取引を禁止
  • 体に埋め込んだ装置によって体調を監視し、健康維持のために最適な食生活と生活習慣を強制される
  • 暴飲暴食しようとしたりカロリーの多い食品を食べようとしたりすると、目に埋め込んだ装置により自動的に警告が流れる
  • 全国民の体調データと行動データは政府のサーバーに送られ一元管理されている。国民が食べたものやどんな行動を取ったかは全て記録され政府には筒抜けになっている。

といった具合になっています。なんだか怖いですね。

僕だったら「俺が何を食べようが俺の自由だ!高カロリーだろうが健康に悪かろうが好きにさせろ!」と思ってしまいます。

しかし『ハーモニー』の世界観では先ほども書いたようにかつて起きた「大災禍」への恐怖心から、健康でいることや他者への思いやりを持つことが当たり前とされ、誰も疑問を感じず大人しく受け入れています。

 

  • 目に映る食品には自動的にカロリーや栄養素の量が表示され、街中で会う人には自動的に健康状態の数値が表示される
  • 電車内で立ち眩みでもしようものならすぐさま近くの席の人が「どうかなさいましたか?こちらに座りますか?」と”思いやり”で声をかけてくる
  • ワインやタバコは密売しなければ手に入れることができず、取引現場が政府の監視組織に見つかるとまるで重罪であるかのように厳格に対処される

 

こんな世界観の中で

「自分の好きなようにモノを食べたり自分の好きなように行動できたりしない社会はオカシイ。

他人への思いやりを強要されるのはオカシイ。誰だって自分の人生では自分自身が一番大切なはずだ。

健康な生活を強いられて寿命を延ばしたり他人への思いやりを強要されたりする社会はオカシイ。

私の体は私のモノだ。自分の好きなように使わせてもらう。」

という考えを持ち、そしてそれを”自殺”という手段によって主張しようとする少女たちが現れました。

 

『ハーモニー』では自殺を企てた少女たちのうち

  • 死んでしまった者(今の社会を破壊しようとする立場)
  • 自殺に失敗して生き残ってしまった者(今の社会を肯定し、継続を望んでいる立場)

の視点で物語が進行します。

「生きている」の定義とは?

ハーモニーでは途中である”事件”が起こります。

「健康・長寿」と「思いやり」を強要された社会で、一週間以内に

  1. 他人を殺して自分が生き残るか?
  2. 自らが死ぬか?

どちらかを選ばなければならなくなります。

 

究極の選択ですよね?

1を選べば「思いやり」に反することになるし、2を選べば「健康・長寿」に反することになります。

人々はこの選択をする中で嫌でも「自分の意思」について考えさせられます。

 

これはつまり、

「いままでは健康であることや他人へ思いやりを持つことが当然とされてきたけど、あれは自分の意思によって行っていたのだろうか?

ただ単にそのように命令され、命令通りに従っていただけなのではないのか?自分はロボットと同じように自動的に動いていただけなのでは?そういう意味では自分は死んでいたのも同然だったのでは?」

と考えさせられるキッカケになりました。

 

意思なき生は”生”と言えるのか?

 

これがこの作品の問いかけというか、テーマのように感じました。

 

 健康でいることや他人に対して優しくいること、そしてそれを当然のこととされている社会が人々にどのような影響を与えるのか?

 

「電車ではお年寄りに席を譲りましょう」

「障がいのある方には優しくしましょう」

「健康のために脂っこい食べものやアルコール、タバコは慎みましょう」

「適度な運動をしましょう」

 

 このような言葉で溢れかえっている日本の行く末を暗示しているみたいで興味深いですね。

 

物語序盤で自殺を企てた少女たちのうち

  • 今の社会を破壊し、人々に自由意思を思い出させようとする立場
  • 今の社会を肯定し、継続を望んでいる立場

のどちらが勝つことになるのか?世界はどちらを選択するのかにも注目です。

刺激的な描写に注意

最後に作品全体を通しての注意点です。

伊藤計劃は他の作品でもそうなのですが、人が亡くなるシーンがたくさん出てきます。また『ハーモニー』では美少女同士のソフトな百合シーンも時々出てくるので、こういったシーンに抵抗がある方は見ない方が良いでしょう。

僕は百合シーンは目を見開き充血させながら、人が死ぬシーンは目を細めながら横目でチラチラ見ました。

途中でちょっと眠くなってくる場面もあるので、伊藤作品が好きな方は一度よく寝てからスッキリした気分で見ることをおすすめします。