【書評】死を受け入れるのは絶対に不可能!『最後の医者は桜を見上げて君を想う』の感想

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なかなか寝付けなかったので夜中に本を読み始めたのですが、僕が想像していたのとは全然違う内容すぎて、そして扱っているテーマが重すぎて逆に眠れなかったのでご報告します。

読んだ本は『最後の医者は桜を見上げて君を想う』です。

ついつい忘れてしまう「死の恐怖」

ドラマや漫画の主人公ではなく、また現実世界の家族や知人でもなく、他の誰でもない自分自身にある日突然死の宣告を突き付けられたらどうしますか?

果たしてあなたはそれを素直に受け入れられるだろうか?

いや絶対に受け入れることはできないだろう。そして実際に宣告されるまで、当事者になるまでは死の宣告をされた者の苦しみを伺い知ることもできないだろう、ということを本書を読んで確信しました。

 

僕はまだそういった状況に陥ったことがないため想像しかできません。

しかし死の宣告をされた人にとってそれがいかに怖いものか、かなり高い確度で「あなたは死ぬ」と宣告されたところで、普通の人には素直に受け入れられるようなものではないことが文章の合間からヒシヒシと伝わってきます。

たとえばある患者が妻に漏らした以下のセリフ。

「……ずっと、生きていられるような気がしていたんだ」

 

健康な時には一瞬たりとも疑ったことがない「自分は明日も元気に生きている」という感覚。これがいかに空虚で馬鹿げた妄想に過ぎないものだったのか、その恐怖と絶望感が死に直面した人たちの言葉から僕の脳ミソに容赦なく流れ込んできました。

健康で死の恐怖に支配されていないとき、人は誰だって無意識に「自分は元気で明日も今日と変わらず生きている…」そう信じ込んでいます。どんなに疲れていても一晩眠れば疲れが吹き飛び、必ず明日を迎えることができる。そう信じ込んでいます。

 

ところが自分が何のためらいもなく信じ込んでいたことに疑念が生じ、もしかしたら明日死ぬかもしれないとわかったら?しかもそれがありとあらゆるデータから科学的に裏付けられていたとしたら?

居酒屋で偶然隣の席に座ったおっちゃんにドヤされるのではなく、スティーブ・ジョブズを信奉するMac信者に「明日死ぬかもしれないと思って毎日を全力で生きよう!」と声をかけられるレベルでもなく、本当に、マジで、避けたくても避けようもなく「あなたは明日には死ぬ可能性が高いです」と宣告されたとしたら?

そんな状況に追い込まれたら僕はいったいどうなってしまうのだろう?と本気で悩み、そしてそんな状況になるまでは絶対に知りようがないので今から心配しても意味がないとも気付き、悶々としながらページをめくり続けました。

医師の仕事とは何か?なんのために患者は病院へ行くのか?

最後の医者は桜を見上げて君を想うではとある病院が舞台となっており、病院を訪れた患者たちの闘病の記録と、患者と向き合う医師の姿を描いています。

そしてこの病院には対照的な2人の医師がおり、

1人は「病気は克服するべきだ。病とは戦わなければならない。医師は病気と闘うために存在している。」と考え、

もう1人は「医師の仕事は患者と向き合うこと。患者がどうしたいのかを聞き出し、手伝うのが仕事。ときには病気と闘わない選択肢を示すことも重要。」

と主張します。

 

それぞれが自分の信じる方法で患者と向き合い対立する様子に、自分が病気になった際、どちらの医師に担当してもらいたいか?本を読みながら真剣に悩みました。

自分ならどうやって生きたいか?どうやって死にたいか?

いま病気で苦しんでいる方もそうでない方も、またご家族に闘病中の方がいる方にも読んでいただき、何のために病院へ行くのか?自分は病院に何を期待しているのか?

病気と診断されたからなんとなく病院に行くのではなく、いま一度病院へ足を運ぶ理由主体的になって問い直す必要があると本書を読んで感じました

本の評価・誰におすすめか?

最後の医者は桜を見上げて君を想う』は生き方、そして死に方を考えるきっかけを与えてくれます。

誰もが漠然と「病気になったら治療するもの」だと思っていますが、治療が困難な病気や、現代の医療ではどうしても治せない病気もあります。運悪くそういった病気に当たってしまった場合、自分はその病とどう向き合うべきなのか?

生存を期待して治療に専念したいのか?

それとも家族や友人たちと残りの人生を有意義に過ごしたいのか?

自分自身に質問を投げかけることで”いま、まさにこの瞬間”の生き方を考えることになりますので、人生の方向性に悩んでいる方や自分のやりたいことが何かわからず悩んでいる方、自分一人では決断できないような問題を抱えている方におすすめな作品です。

 

また表現方法が素晴らしく、ストーリーだけではなく何気ない日常シーンに至るまで印象的な言い回しが使われていますので、文章表現のレパートリーを増やしたい方には勉強になります。あとで読み返したい表現が随所に散りばめられているためマーカーを引きながら読んだのですが、本当に小説か!?と思うくらい線を引きたい部分が大量にありました。

数十年後には「平成の文学全集」に掲載されるかも…というレベルかどうかはわかりませんが、扱っているテーマの内容と見事な表現力に敬意を表し☆5つ。ぜひ読んでもらいたい作品だと思います。

いまならアマゾンプライム会員はキンドル版が読み放題になっておりますので、最後の医者は桜を見上げて君を想うをこの機会にぜひ。

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